仙台市財政局財政課による
「市民利用施設の使用料見直しに関する基本的な考え方(平成27年11月)」について
2015年12月20日
仙台バッハゼミナール代表・MHKS音楽プロデューサー・昭和音楽大学講師・ピアニスト 田原さえ
音楽に携わる者として意見を述べさせていただきたい。全体的に、大雑把な上に一般市民には分かりにくく、独りよがり的な表現が多く見られる内容であると言える。
- まず第一に、一般市民を対象にした文書であるならば「受益者」の説明からすべきでは?
② p.1・I-1.「受益者」といっても、市民活動のあり方として、例えば市民センターで小さな部屋を借りて会合を行うのと、ホールを借りてコンサートをするのと、体育館を借り切ってスポーツイベントを行うのと、まったく三者三様の利用目的及び利用の仕方があると考えられる。これらをすべてひとつの考え方でくくること自体、認識不足である。
③ タイトルにあるように“基本的な”ということで、こんなにアバウトな内容なのか?
具体的な数値がほとんど出ておらず、そもそもこのような施設全体の経費としての支出が、仙台市全体の予算の中でどれほどの比重を占めているのか分からない。
p.1の円グラフ・右側では、まるで受益者の負担が市民全体にのしかかっているような印象を与えてしまうのではないか。更に円グラフ・左側「管理運営費等の内訳」より、市全体の予算の中での施設全体の経費の割合を示すようなグラフを載せるべきではないか?
④ これだけ多様な諸施設を「市民利用施設」と一言でくくること自体、一般市民に対する説明態度として、非常に大雑把で不親切だと思われる。例えば、神奈川県相模原市の『「受益負担者の在り方の基本方針」に基づくコスト公表等について』などは比較にならないほど細かい。これらの施設の管理運営は市民局が直接携わっているものと考えられるが、今回のこの「市民利用施設の使用料見直しに関する基本的な考え方」作成にあたって市民局との連携はあったのか?(あったとは考えにくい)
⑤ p.3「使用料改定のイメージ」の表において、例えば「光熱水費」と「清掃等委託料」とは現在全体のどれくらいの割合を占め、それが具体的にはどれくらいの額になるのか分からない。更にこの割合は利用目的や性格の異なる施設ごとに当然違ってくるはずで、それこそひとくくりにできるものではない。
⑥ 同じくp.3の表では、この見直しによって具体的にどれくらいの増収が見込まれるのかも示されていないのは何故か。きちんと試算を示すべきである。
⑦ p.4・3. 曜日別料金体系の見直しよりも、ホールごとに時間の設定が違う方が問題ではないか。あるホールは区分が9:00~12:00・13:00~17:00・18:00~22:00となっていたり、他では9:00~13:00・13:00~17:00・17:00~22:00だったりしている。
⑧ p.4・3.(2) 「一般に夜間の場合は電気料金等のコスト増の要因」とあるが、具体的にどういうことか分からない。例えば一般的な音楽ホールでは、日中も夜間も照明などほとんど変わらないと思われる。そのような施設が想定されるのであれば、具体的にそのような例を挙げてほしい。
⑨ p.5・(3)①及び② 上述(項目③)したように、提示された表は「イメージ」としてこれほどアバウトなのに、突然ここでは数値が示され、しかもその設定基準(理由)が示されていないのは何故か。例えば②で営利目的の定義を「物品や…宣伝行為」としながら、これを営利・非営利の区別もなく「入場料1,000円以上の場合」と同額の割増率に扱っていることは理不尽と言える。そもそも「営利・非営利」の区別とその定義があまりにも不明瞭である(項目⑪参照のこと)。更に「1,000円以上の場合」で「割増率が3倍」では、基本的に自主事業として行う演奏会や演劇などの市民による舞台芸術活動はほとんどがあてはまり、ただでさえ赤字を覚悟して行う文化・芸術表現活動を更に圧迫するものである。市民による文化・芸術表現活動は、その継続こそが仙台市全体の文化環境を整えていく大事な活動であり、それを阻むかのような数値は「楽都仙台」「劇都仙台」と謳っている仙台市の考え方としては理解しがたい。
⑩ p.5・(3)③「スポーツ施設の専用利用は…特殊性等があり」とあるが、舞台芸術にもそれはあてはまり、例えば興行的に音楽事務所が率いてくる外国のオーケストラのコンサートと、高校生のブラスバンド部の定期公演と(入場料が1,000円以上であった場合)同じ割増率を当てはめられるのだろうか? 一般的な舞台芸術関係の公演の場合、入場料を設定するのは常識的なことで、そもそもがその行為すべてをひとくくりにして“営利目的”とすることはおかしい。同じように見える営利活動であっても、営利団体が行うものと非営利団体が行うものは自ずから目的が違うのはあまりにも自明である。
⑪ p.5・(3)③ 「スポーツ施設だけは別枠にして(まずはその「現行制度」を表示するか、検索するためのURLを付けるべき)他の施設はすべて同じにまとめる」という根拠が「現在の区分に合理性がある」だけでは説得力に乏しい。項目⑩で述べたようにスポーツだけがプロの興行を行っているのではないのだから、それは舞台芸術関係全般にもあてはまるはずである。その線引きを「営利・非営利」だけで行うのであれば、「営利・非営利」についてもっと細かい配慮のなされた定義をきちんと示すべきである。
⑫ スポーツ施設については、その高い維持費について一時期問題視されたものがあったが、その後はどのようになっているのか。むしろそのようなキャパシティの大きな会場にこそ、低い割増率でも大きな増収が見込まれると考えられるのだが、どうしてあえて対象とはしないのか、理由を説明してほしい。
⑬ 【別紙】一覧表での料金の提示は、例えば「若林区文化センター・大ホール」で「入場料を徴収しない・平日・午後」など、常識的に考えてそのホールを使用して何らかの舞台表現活動を行おうとしたときに設定できる区分ではない。意図的に低い値段を提示していると考えられても仕方がないのではないか。たとえ一例だとしても、あるひとつの施設における平日及び土/日/休日の時間帯区分すべての料金を示すべき。
⑭ 【別紙】スポーツ施設も申し訳程度に示しているが、「現行制度」があるならそれをきちんと示して、スタジアムなどの料金をも明記すべきである。
⑮ 今年度の市政方針演説要旨において、音楽ホール建設への調査着手についても言及されている。もちろん「楽都仙台」として専用の音楽ホールができるのは音楽関係者としても望ましいところだが、p.2・II-2.及びIIIにもある通りこれから様々な施設において一層の老朽化対策が切実になる。だからこその「受益者負担増」という手法が必要なのであろう。ならば、長い目で見てそのような費用がかかる施設を更に増やすことは矛盾しないのか。仙台市には、すでに1,500席程度のホールが少なくとも4つはあり、そのうち2つはすでに築後30年を過ぎている。それらをまずは有益に使えるようにするか、或いは解体するなどしてこれから増える一方の維持費・改修費を賄う方法を実践する方が先ではないのか。
更に、仙台フィルの拠点とするともいうが、彼らは常時2,000人の聴衆を動員できるのか。現状に鑑みて、それは現実的とは言えないのではないか。また、興行的に行われる公演でもそれは同様であり、更にどのくらいの稼働率を上げることができるのか等、その調査及び結果の公表を期待する。
以上、「市民利用施設の使用料見直しに関する基本的な考え方」についての意見をまとめてみたが、上述の神奈川県相模原市、或いは山形市(平成20年度、21年度)、柏市などのような丁寧な資料作りを検討していただきたい。箱物を作るだけ作り、いざ経費がまかなえなくなったら負担を増やす…もちろん時代によって経済状況も変化することは理解できないわけではないが、もう少し市民の目線で、幅広く柔軟性をもって見ていただきたいと切に願う。